熊の話(8)

当時聞いた話だが、熊は毛皮と胆嚢
(俗に言う熊の胃)が高く売れる。両方
とも、 ほぼ同じ程度の値段だったそう
である。

熊の胆嚢は、切り開いて簀の子(すのこ)
の上に広げ陰干しにする。竹べらで少し
ずつ延 ばして行くうちに、すっかり黒くなり
ピッチのように固くなる。

これを呑むと、 腹痛などぴたりと治まる
そうである。腹痛の経験のない私には、
それがどの程度の効き目かは分からない。

この「熊の胃」は、同じ重さの純金と同じ
値段だと言う から凄い。幸美さんは、
その金で連発銃を買った。この新式鉄砲を
手にして、 彼はしばしば山中に赴いたが、
熊を取ったという話はその後聞かない。

すき焼きパーティーの時の鎌倉さんの話は
面白かった。「俺は熊なんぞ少しも恐ろしく
ないが、幸美の鉄砲は実に恐ろしかった。
何しろ俺の耳のそばを、ヒュ ンヒュンと音を
立てながら幸美の弾が通り過ぎていくん
だからな」みんなはどっ と笑ったが、
考えてみれば笑い事ではない。

幸美さんは、もしかしたら熊ではな く人間を
取っていたかも知れないのだ。後で聞くと
幸美さんは、がたがた震えな がら発砲して
いたのだそうである。

その9(最終話)に続く…

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