父与作の失敗(3)

 

「こんないい時代は長くは続かない。」

彼はいつもそう口にしていた。

だから朝の四時と もなると現場に出て
いたし、夜は八時前に帰宅することが
なかった。

しかし彼は、戦後経済の先行きに関して
致命的な過ちを犯した。

「今の百円が一万円に使 える時代が必ず
来る」と信じていたのである。第一次世界
大戦、いわゆる欧州大戦の後、急激に物価
が下がる時期があったらしい。いわゆるデフ
レーションである。

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それを経験した彼は、大きな戦争があった
後には必ずデフレが来ると思っていたらしい
のである。

だから彼は毎月せっせと貯金を重ね、
「金持ち」にしては実に驚くほど慎ましい
生活を続 けた。

「炭住」建設ブームだから、我々の家族は
少し古い「炭住」に住めた。石炭も電気も
只である。金の残らない筈がない。

 

その4につづく…

 

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