熊の話(1)

狭山ヶ丘高等学校長 小川義男

北海道の知床では、人慣れした熊が
出没して人気を呼んでいる。私はこの
地域の奥地に ある「カムイワッカの滝」
を訪れたことがある。ここにも熊が出没
するそうである。

湯の 流れる滝をわらじ履きで登って
行った果てに、温泉でできた泉がある。
これが有名なカム イワッカの天然温泉
である。湯に入って良い気分になって
いるうちに、立て札に気がつい た。

熊が出没するから、夜は絶対にこの温泉
に近づかないようにと書かれてある。 人づて
に聞いた話だが、大胆な若者が、深夜この
温泉に入りに行った。世の中には、大胆な
人、無謀な人が割合多いものである。

彼は星空を仰ぎながら気持ちよくタオルを
使っ た。すると誰か入ってきたのか、後ろに
水音がする。「ほらほら、熊が出るなんてこけ
お どしだ。ほかにも入りに来る人が居るじゃ
ないか。」挨拶でもしようと彼が振り返ると、
湯の音を立てているのは人間ではなかった。

彼が熊と共にどのくら温泉を楽しんだのかは
聞き漏らしたが、幸い人慣れした熊だったの
であろう。 しかし熊は本来、簡単に人に慣れ
るような生き物ではない。本州に生息する月
の輪熊く らいなら、刃物さえ持っていれば
何とか退治することもできよう。だが羆(ひぐま)
となるとそうは行かない。アイヌ犬数匹を連れた
アイヌの猛者ならともかく、羆と戦って我々が
生き残る 道はない。

 

その2に続く…

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