熊の話(2)

私は「山奥の中学校代用教員」として四年間、
熊の出没する地域に生活した。 秋の頃になる
と熊が里にも下りてくる。冬眠と言っても熊の
冬眠は、蛙や蛇の冬眠とは違う。彼らは、穴の
中でうつらうつらと時を過ごすのである。決して
眠り込んでいるわけではない。だから体温も
平常に近く維持されるし、寝ていてもエネルギー
は消耗する。雌熊の場合は、冬眠中に出産する
上、子熊達に母乳を与えなければならない。
だから、その苦労はひととおりのものではない
だろう。

秋口にかかると、熊は何でもかでもむさぼり食う。
体内に栄養を蓄えようとするのであ る。もし十分
に肥ることに成功しなければ、熊は冬眠中に死ん
でしまう。彼らは本能的に その事を知っているから、
秋口にかかるとえさを求めるのに必死である。

十分肥満するこ とができなかった熊は冬眠しない。
極寒の中、彼らは雪の山野を彷徨い、雪を掘り起こ
して、雪中に埋まっている笹などを食べるのである。
あるいは川の魚なども狙うのかも知れない。北海道
の寒さは尋常ではない。「穴なし熊」の冬が、どれほど
過酷なものかを熊は熟知している。それだけに彼らは、
肥え太る事に命を賭けるのである。

 

その3に続く…

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