熊の話(3)

皆さんは熊を食べたことがないだろうと思う。
経験のある場合も、ある人は大変旨いと
言い、ある人は「食われたものではない」と
言う。

熊は旨いかまずいか、その答えをお教えしよう。
冬眠に入る直前の熊は、豚に負けないくらい
実に旨い。春、冬眠から出てきた熊は、やせ
衰えてひょろひょろと歩く。子連れでもない限り、
その頃の熊なら私でも倒すことができる。こんな
時季の熊は、肉も脂もなく食えた代物ではない。
「まるで靴の底のよう」なのは、この時季の熊で
ある。

ともあれ、肥え太るため秋の熊は命がけである。
私は八月の末に、朝日岳から黒岳まで 大雪山を
単独縦走した事がある。しかしこの時季の熊は
危険だ。だから賢い人はそんな冒険はしない。
遅くとも八月上旬に日程を組むよう心がけるのである。

縦走は雪渓の水場に立ち寄らなければならない。
しかしそこは熊の水場でもある。晩秋の色濃い
大雪山で、熊 と水場を共にするのだから、馬鹿で
なければそんな事はしない。良くも無事にたどり
着けたものだと今でも思う。 山葡萄、こくわ、
山リンゴ、鮭、彼らは何でも食う。食い物がなければ
ブドウの葉っぱでも食う。

余談だが、ブドウの蔓や茎は案外と旨いものである。
食料がなくて山で飢え死 にしたなどと言う話を聞くと、
私は「馬鹿みたい」と思う。山全体が食い物そのもの
だか らである。

しかし山にも豊凶がある。不作の時、熊は生命の危険
に脅かされる。かくして彼らは、 時に人里を襲う事に
なるのである。

 

その4に続く…

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