熊の話(6)

人食い熊ではないが、田畑を荒らし家畜を
殺すような熊は、いつまた人里に現れて害を
及ぼすか分からない。時には人食い熊に
変貌する危険もある。

山狩りを行い二百人ほどの「鉄砲撃ち」が
動員されたこと、機能十分ではない村田銃を
引 っ提げて、私もその一員に加わったことは
前号に書いた。

しかし山狩りとは生やさしい仕事ではない。
熊が住んでいると思われる山を遠巻きに
囲んで、頂上までその輪を小さくしていく
のであるが、頂上まで行っても、 仲間達と
一緒になるばかりで、熊は見つからないと
いうケースがほとんどであっ た。

降雪前の枯れ山とはいえ、自然林を進んで
いくことは並大抵の仕事ではない。 結局、
初日にして私はダウンする結果となった。
「学校もあるので」という逃げ口上で、私は
山狩り集団を脱落した。 熊は数里四方の
臭いを嗅ぎ取ると言われる。強い割に生来
臆病な獣である。こ れを山狩りして撃ち取る
というのは容易な業ではないのだ。十日以上
も山狩りが 続き、大地がうっすらと初雪に
覆われる頃、この暴れ熊は遂に御用となった。

その7に続く…

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