ひとりで行った入学式(5)

ところがこの鰊カスが、口いっぱいに含んで
かじっていると、もの凄くうまいのである。農協
に鰊カスが積んであるという情報は、その日の
うちに悪童達の耳に入る。

彼らは大挙して農協に出かけ、自慢の「肥後の守」
(折りたたみナイフ)で硬い鰊カスを ほじくり出し、
学生服のポケット一杯に詰め込む。

大人数で食うのだから、結局農協のおじさんに
見つかり、ビンタを張られることになる。

だが私はそうではなかった。 私は群れには入らず、
積み上げられた鰊カスの裏側からよじ登り、鰊カス
の穴の中に入り込んだ。

一番底まで入り込み、そこでゆっくりとほじって食う
のである。仲間がおじさんに見つかって叱られて
いる気配を「鰊カスの塔」の中で聞きながら、
おじさんの勤務時間の終わるのを私は待った。

身動きできぬくらい鰊カスを詰めたポケットを
押さえながら、月光の下を帰路についたもの
である。

 

振り返って、まことに個性的な、自我の強い
子どもであったと思う。生徒達に接し ながら、
そのひとりひとりが、それぞれどのような個性を
与えられてこの世に生まれてきているのかを
考えさせられるのである。

<完>

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