似顔絵1 - コピー (2)明後日の2月1日より中学校の入学試験が始まります。オミクロン株による感染拡大が続き、不安な日々ではありますが、受験生の皆さんは入試に向け、一生懸命努力されていることと思います。

本校でも教室や共有部分の消毒、換気、次亜塩素酸空気清浄機の設置等、感染防止対策を強化し、安心して受験してもらえるよう、準備しております。受験生の皆さんにはいろいろご不便をおかけしますが、体調に十分留意し、試験当日、元気にお会いするのを教職員一同、楽しみにお待ちしています。

 

さて、〖ほりしぇん副校長の教育談義〗第30話は、「美術の授業―『一本のビンを描く』―ものの見方を教える」<中1‐1学期の実践>です。

 

本校では、定期的に一つの授業を教員全員で参観し、検討会を持つ「授業研究会」を実施しています。他の教科の授業を知る機会でもあり、自分の教科との共通点を感じる絶好の場にもなっています。

その日は7年(中1)の美術、授業者はY先生です。明星の美術の授業では、「見て描く」「イメージを絵にする」「模様・デザイン」の3つの領域が用意されていますが、そのうちの「見て描く」=『一本のビンを描く』が今回の課題です。中学校に入学して最初の教材です。一般的な美術の授業では「見たとおり描けばいいんです」という指示がよく出されます。その実、立体を平面にうつすことは生徒にとってなかなか困難なことです。うまく形をとれない生徒の絵を称して、「そう見えるんだから」「その子の個性を尊重して」という言い方をする人たちがいます。また、それとは全く反対の立場に立ち、「技術指導」の重要性を述べる人たちがいます。しかし、明星の美術の授業を見ていていつも思うことは、「見る眼」を育てているということです。

その時の授業を参観していて驚いたのは、例年になく正確に形の取れている生徒が多かったことでした。自分の描いている絵を友達に持ってもらって、少し離れたところから実際のビンと比較している生徒がいます。≪ビンを描かせると、子どもたちはしばしばラベルは四角、ビンの底は平ら・・・と、目の前にあるものを観察した結果ではなく、それぞれが知っていること、思い込んでいることを描いていく(Y)≫ そのような思い込みから自由にさせることが「見る眼」を育てるということなのでしょう。そのためにはどんな働きかけをし、何を意識させ、自ら気づくようにさせるか?

私はその授業の工夫をこんな風に感じました。 ①ビンをいろんな方向から、たとえば真上から、真横から、斜め上からといったようにことあるごとに意識的に観察させている。 ②等間隔に数本の輪ゴムをはめた透明の円柱パイプを用意し、目の位置(視点)によって輪ゴムがどのような形になるかを観察させている。 ③影を描かせることで、光の方向を意識させる。 そして何よりも「やるな」と思わされたのは、生徒の描いている絵の裏に細かなコメントの書いてある付箋が貼ってあったことです。美術の授業では当然生徒は個人的なアドバイスを求めます。授業者は必死にそれに対応しますが、1人の教師に30人以上の生徒、どんなに頑張っても生徒の不満は残ります。Y先生は、次の授業までに全員の生徒にコメントを書いていると言います。

 

ここでも「視点」という言葉が出てきました。十数年前になるでしょうか。私には忘れられない二つの作品があります。その前に少し説明させていただくと、毎年9年(中3)美術の卒業制作のテーマは『都市を描く』です。生徒は自分なりの都市を描きます。街に出てさまざまな写真を撮る生徒がいます。これはと思う雑誌の記事を切り抜き、スケッチブックに貼っている生徒もいます。そうして出来上がった作品は、卒業式の日、会場となる体育館に木工・工芸の作品とともに展示されます。そこに貼り出されていた2枚の絵、どちらもホームレスの段ボールの小屋を描いたものでした。ちょうど10代の少年によるホームレス襲撃の事件が問題になっていたころだったでしょうか。1枚の絵は、高台から見たホームレスの段ボール小屋の立ち並ぶ風景。もう一枚は、段ボールの小屋の中から見える、街中を足早に通り過ぎていくサラリーマンや学生の足。彼は、実際に段ボール小屋を作り、その中に入って街を観察したそうです。同じ段ボール小屋を描きながら、異なる二つの視点の絵です。前者は、現代日本の格差社会を描いています。後者は、何が普通なのか、何が正常なのかの批評を含んでいるように私は感じました。

絵がうまいというのは、どういうことでしょうか。だれもが画家を目指すわけではありません。しかし、正確にものを観る力、現実世界を複数の視点から切り取る力はだれにとっても必要なのです。自由に自分の人生を生きる上で、なくてはならないものだと思うのです。そのための技術指導が必要なのです。目的と手段を混同してしまってはいけません。

 

昨年の卒業式、卒業生全員の卒業制作『都市を描く』がいつものように貼り出されました。その中の一枚の絵に目がとまりました。電車の車内の光景です。座席シートに腰を掛けた学生やサラリーマンはみな一様にスマホを見続けています。そんな中、一人の小さな男の子だけが後ろ向きに膝をつき、窓の外を眺めています。周りの大人たちは全くの無関心です。男の子の眺めていた窓の外には、何とも美しい夕焼けが見えていたのです。

(中学校副校長 堀内)

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