今、本校では毎週、中学生と高校1年生が朝日新聞の『天声人語』の書き写しに挑戦しています。この取り組みは、文章を読み取る力や表現力を身につけるだけでなく、扱われている内容にタイムリーな話題が多いので社会問題や時事問題に関する知識や理解を深めることにも役に立っています。

 先週末に配られた課題は、10月12日付けの『天声人語』で、内容は「マララ・ユスフザイさん」について書かれたものでした。書き写しを済ませた人も多いことと思いますが、少し説明を加えたいと思います。

 マララさんはパキスタンの16歳の少女です。1年前の10月9日にスクールバスで下校途中に武装したグループに襲われ、銃撃されて瀕死の重傷を負いました。

 なぜ当時15歳の少女が武装勢力に狙われたのか。それは彼女が「勉強をしたい」と訴えたからなのです。パキスタンはイスラム教の国です。マララさんも敬虔なイスラム教徒です。しかし、マララさんの住むパキスタン北部の地域にはタリバーンと呼ばれるイスラム教の組織が強い勢力を持っています。そして、この組織は、女性は子どもを産み育て、家庭を守ることが神から与えられた仕事であり、家を離れて社会に出て働くことは許されない。従って女性は学校教育を受ける必要もないと主張し、女子の通う学校への襲撃や破壊を繰り返していました。

 マララさんは5年前、11歳の時、イギリスBBC放送のブログに「パキスタン女子学生の日記」を投稿し、恐怖におびえながらも暴力に屈することなく勉強に取り組む決意を表明しました。そして、このブログが欧米諸国で大きな反響を呼び、マララさんは教育の機会を奪われた女性達の希望の象徴になりました。マララさんは世界各国のマスコミによって紹介され、各種の表彰も受けましたが、それによりタリバーンの反感を買って、武装グループによる襲撃を受けることになってしまいました。

 頭と首に2発の銃弾を受けた彼女は、パキスタンで応急手当を受けた後イギリスの病院に運ばれて大手術を受け、奇跡的に命を取り止めることが出来ました。そして、退院して話せるようになった彼女は16歳の誕生日にあたる今年7月12日に国連に招かれ、各国の代表の前で演説をしました。

マララさんの演説の一部を紹介します。

 「親愛なるみなさん、2012年10月9日、タリバンは私の額の左側を銃で撃ちました。私の友人も撃たれました。彼らは銃弾で私たちを黙らせようと考えたのです。でも失敗しました。私たちが撃たれたとき、数えきれないほどの声が上がったのです。テロリストたちは私たちの目的を変えさせ、志を阻止しようと考えたのでしょう。しかし、私の人生で変わったものは何一つありません。私の中で弱さ、恐怖、絶望が死にました。そして、強さ、力、勇気が生まれたのです。」

 「教育には平和が欠かせません。世界の多くの場所では、特にパキスタンとアフガニスタンでは、テロリズム、戦争、紛争のせいで子どもたちは学校に行けません。私たちは本当にこんな戦争にはうんざりとしています。女性と子どもは、世界の多くの場所で、さまざまな形で、被害を受けています。私たちは今もなお何百万人もの人たちが、貧困、不当な扱い、そして無学に苦しめられていることを忘れてはいけません。何百万人もの子どもたちが学校に行っていないことを忘れてはいけません。少女たち、少年たちが明るい平和な未来を待ち望んでいることを忘れてはいけません。」

 「無学、貧困、そしてテロリズムと闘いましょう。本を手に取り、ペンを握りましょう。それが私たちにとってもっとも強力な武器なのです。1人の子ども、1人の先生、1冊の本、そして1本のペン、それで世界を変えられます。教育こそがただ一つの解決策です。エデュケーション・ファースト(教育を第一に)。ありがとうございました。」

 マララさんは、世界に向かって『平和』と『教育』の大切さについて訴えたのです。

 国連はこの7月12日をマララ・デーとすることを決めました。マララさんは史上最年少のノーベル平和賞の候補にも挙げられました。残念ながら受賞は実現しませんでしたが、素晴らしいことです。

 しかし、パキスタンの武装グループは今後もマララさんへの襲撃を行うことを予告しています。

 「学校に通って勉強する」ということが命がけのことである地域が存在し、危険があっても「それでも勉強をしたい」という子どもたちが地球上には大勢いることを我々は知らなくてはいけません。

 日々当たり前のように学校に通い、何の不安もなく勉強に専念できることの幸せに感謝し、だからこそ真剣に学び「考えることのできる人」になるために努力することが皆さんの義務だと思います。

 今日は、中学生と高校1年生が取り組んでいる『天声人語』に関連して話しました。

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