今日の表題を見て、生徒諸君は「なーんだ。校長先生がこれまでもっともらしく書いてきたのは、僕たちを最後は勉強へ誘導するための悪巧みだったのか」とむくれるかもしれません。しかし大事なことですから、だまされたと思っても最後まで読んでください。納得するはずです。

夏休み講座の締めくくりの話は、社会に出たとき、君たちを高く飛翔させてくれる「想像力」、そして「創造力」は、しっかりした知識の蓄えなしには働いてくれないということです。ジャンプするにはキックする足元を支える揺るがない地面が必要です。その地面の役割を果たすのが、学ぶことによって得られる知識にほかなりません。

私は中学生時代、建築家になることを夢見ていました。夏休みは宿題を最初の一週間で済ませたあとは、遊びの残りの大半の時間を建物の設計図を描くことに費やしていました。大小の住宅に始まって、学校、劇場、店舗などの図面(と言っても大半が平面図どまりですが)を何枚も何枚も描きました。住宅設計集や建築物の外観や内部を撮影した写真集などを参考にしながら、そこから夢を膨らませて鉛筆を動かしたものです。

あこがれの建築家は、最初は近代建築の巨匠ル・コルビュジュ(フランス人)でしたが、途中から帝国ホテル旧館の設計者として知られるフランク・ロイド・ライト(アメリカ人)に代わりました。そのきっかけは、建築雑誌にライト氏が設計した別荘の写真が載っていたからです。「落水荘」と呼ばれるその別荘は、うっそうとした森の中を流れる滝の上に建てられていました。張り出した大きなテラスの下から滝が落下しているのです。そのときの私は、「こんなことも出来るんだ」と驚嘆し、それからしばらくは、家のリビングに小川をそのまま取り込んだ住宅とか屋内に樹がそのまま生えている住宅などをテーマに図面を引いていました。ほぼ空想の世界に遊んでいたのだと、今は思います。

さまざまの建築物を頭の中で思い描くことは子供心に楽しいことでしたが、それは、マッチ棒を接着剤でつなぎ合わせた程度の実際には建てることのできない代物でした。なぜなら、私には建築設計に関する専門的知識はなかったからです。
あのように大胆な構想の「落水荘」という傑作が誕生したのは、ライト氏ならではの想像力と創造力が力強く働いた賜物です。しかし、構造力学(正確な用語かどうかわかりませんが)など建築に関する専門の知識の裏づけがなければ、所詮は<砂上の楼閣>です。建築家という仕事は優れて創造的な営みだと考えますが、そのための想像力が空想に流れないためには、数学や物理をしっかり学ぶ必要があります。科学的知識の裏付けのない想像は偽りの想像でしかありません。

また建物にはさまざまの材料を組み合わせますが、その素材一つひとつの特性について正確な知識を持つ必要があります。そもそも、例えばこういう素晴らしい石材があるということを知らなければ、その石材を使おうという発想自体が浮かんできません。
想像力も創造力も、正確な知識の土壌の上に花開くのです。その土壌が豊かであればあるだけ想像力が広がり、力強い創造力が立ち上がるのです。乏しい知識の上には貧困な想像力しか働きません。だから大いに学ぶ必要があるのです。貪欲に学ぶ姿勢を持ってください。君たちの夏休みも残り少なくなりました。新学期、元気な顔を見せてください。

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