熊の話(9)

昔の北海道で、熊より恐れられた
のは狼である。

狼は群棲して山野に 跳梁(ちょうりょう)
する。牧場を襲ったりして牛や馬を
殺して食い、農家の庭先に現れて鶏を
盗んだり した。

四十匹程度の群れをつくって行動した。
これが北海道狼の命取りになった。 その
及ぼす惨害は、ひととおりのものでない
から、時には軍隊まで出動して駆除した
のである。

機関銃で狼の群れに射撃したというから、
壮観な光景だったであ ろう。 熊は一山一穴
(いちざんいっけつ) の原則を頑(かたく )な
に守る。

危険ではあるが、人間に取り根絶やしにせねば
ならぬほどの危険さではない。かくして北海道羆
(ひぐま) は根絶を免れた。

今は初夏、熊に取り最も過ごしやすい季節である。
彼らは、この優しい季節の北海道を 楽しみ、もしか
すると、スミレの美しさに、うっとり見とれたりしている
のかも知れない。

(完)

『狭山ヶ丘通信第12号より』

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