皆さんこんにちは。学校長の宍戸崇哲(ししどたかのり)です。毎月1回、校長としての私の感じたことや考えを「宍戸校長の【Back to Basics】」と題して、本校HPで発信していきます。学校や生徒のことを中心に社会の出来事なども交えて、皆さんと何かを共有できればと思います。どうぞ宜しくお願い申し上げます。今回は「学校の新しい日常」と題してお届けいたします。
ランドセルを背負い、黄色い帽子を被った子供達、ポロシャツにチェック柄のパンツ・スカートの中学生たちが次々と通学路を進んでいく。その間を通勤のための大人たちが足早に歩いていく。小さな子供を乗せた電動自転車がかなりのスピードで、車列の傍を走っている。
2020年6月29日の世田谷の住宅街、朝の様子である。今日から東京の多くの学校が、分散登校から平常の全校登校となる。

本校も本日から特別時程、月曜〜土曜一コマ40分の6時間授業が始まる。何か、かつての日常が戻ったのかという気になる。しかし、実際にはこれまでとは全く違う「学校の新しい日常」が動き出した。生徒は適切なソーシャルディスタンスを保ち、密を避けて、安全対策をしながら対面授業に参加していく。友達との楽しい食事を含めた様々な集団活動の中で、「個の状態」を確立することが求められる。
21世紀型教育の特徴の一つに「学びの個別化」がある。3ヶ月にわたる長期休校で、集団で教育活動を行うことから、個人で学び、活動することを余儀なくされ、オンライン教育が学校の中心に置かれた。パンデミックが「学びの個別化」に拍車をかけ、日本の新しい教育の取り組みに大きな変化をもたらしたとも言える。本校では15年ほど前から、留学・S Gコースや学内予備校でウェブ授業がデバイスを通じて実施されてきた。それが加速度的に全校のあらゆるコースに拡大して、新たな流れが形成された。これは本校だけでなく、日本の教育現場の流れになりつつある。「学びの個別化」がアフターコロナ時代の新たな教育スキームの骨組みになるであろう。
新たな教育の中で基本とされる概念は、知識のインプットを個人で行い、それを土台に生み出される個人の考えをアウトプットしていくというものであろう。つまり、従来、私たちが行なっていた授業の大部分を子供達がデバイスなどを用いて、自立して学び、その中での「気づき」「疑問」「学び」を学校で他者と共有し、さらにそこから自らの学びを発展させるということだろうか。

ここで忘れてはならないことがある。学校の機能の確認作業である。「シン・ニホン」の著者、慶應大環境情報学部教授、安宅和人氏の言葉に「本能のままに生きる状態から人間にするのが初等教育、人間を社会性のある大人にするのが中等教育だとしたら、大学が担う高等教育の目的は、自律的に考え、物を生み出せる人間をつくることだろう。」(2020.5.30東洋経済インタビュー記事より抜粋)とある。中学・高校の中等教育機関で行う社会性の構築は学校で様々な他者と触れ合うことで成される。社会的ルールやマナー、他者との適切なコミュニケーション、考えの違う人と協働することを学ぶ場が学校である。この大前提の機能を維持しながら、新たな教育の前提が見事に融合することが真の新しい教育の姿であると考える。だからこそ、「学校の新しい日常」は感染防止対策による安全面だけでなく、教育の中身についても、従来と異なる「新しい日常」の始まりであると思う。