5年前の夏、高知龍馬空港の待合室での出来事。
92歳になる母親と二人で福岡空港から到着し、送迎バスを待っていた時のことでした。
隣に座る母親が突然、
「どなたが存じませんが、送っていただきありがとうございました」と、
私に深々と頭を下げたのです。
機中では家族のことや全国で足を踏み入れた都道府県はないなど、
とりとめもない話をしていた母でしたが、
小さな待合室でしばらくの沈黙が続いた後のことでした。
あまりの言葉に呆れ、「何言っているの!」という言葉さえ出ませんでした。
10分後に乗ったバスの中では普段の母に戻りましたが、
このとき初めて「認知症になると記憶がまだらに消えていく」ということを実感しました。