ラグビー部顧問尾花先生の「夏の思い出」 愛と勇気の文化祭 その1 をお送りします。

 

高校時代の夏の思い出というと、ハッキリいって、部活でしごかれたこと以外記憶になく、思い出せば思い出すほどブルーな気持ちになってくるので、あえてほのぼのとする話をひとつ。
それは、なつかしくもあり、少々恥ずかしくもある、文化祭にまつわる小さなエピソードです。夏というには、いささかズレているかもしれませんが、一応夏の名残りとしてお話しします。

自分の母校では、毎年9月の頭に文化祭があります。二日間にかけて行われる文化祭は、イベントの少ない高校生活の中で、誰もが心待ちにしている行事でした。というのも、男子校の文化祭であれば、ほとんど女子高生しかやって来ないからです。言うなれば、モテない男子高生にとって、年に一度〈地上の七夕〉みたいなもの。
その日を逃せば、またもとのむさ苦しい男だけの世界に逆戻り。ああ、青春かな文化祭。その日ばかりは誰もが胸高鳴り、血湧き肉躍り、そして無意味に雄叫びを上げたくなる、そんな二日間なのであります。以下の話は、自分が高校一年生の時の実話です。

文化祭2日目の朝、部活動における教育係、先輩の二年生から「部室前に全員集合」とのお達しがありました。尋常でないこの雰囲気、誰か何かやらかしたのだろうか? こんな日に呼び出しなんて、いったい何が起こったんだ?
一年生部員全員に緊張が走りました。みな即座に集合し、先輩の前に直立不動です。すると、二年生のリーダーから次のような言葉が。
「お前ら、後夜祭のキャンプファイヤーで、フォークダンスあるの知ってるな? そこで女の子と踊れなかったヤツは『アレ』だからな。以上」

さて、『アレ』とはいったいナンぞや。そう、我が校ラグビー部独特の、それはそれは厳しい地獄のような練習のことを指すのです。ふだんの練習で、一年生がヘマをした時にだけ行われるあの練習。
全員の顔色が少しずつ変わって行くのがわかります。自分の隣にいた部員が、先輩には聞こえない小さな声で呟きました。
「ジーザス…」。
たかがフォークダンスをペアで踊れないだけで、地獄の『アレ』が。これはいかん、それだけはごめんだ。
楽しいはずの文化祭、部員に戦慄がはしりました。一年生全員の目の色が変わり、そして、部室前から校舎に向かって全力で走っていったのです。
《つづく》

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