※尾花先生の文化祭はどうなるのでしょうか。感動の最終回です。

そのうち、キャンプファイヤーの点火を待つ人と、その前に帰ろうとする人とが次第にはっきりしてきました。ちらほらと、ダンスに使うオクラホマミキサーのテスト放送も聞こえます。
いや~な汗が背をつたうその時、後夜祭を待つ人混みの中に、ひとりの女の子が目につきました。少々茶髪の目立つ、落ち着いた感じの女子高生が、もう一人の友だちと話しながら、楽しそうにグランドと校舎の間ににたたずんでいます。
小柄でよく笑う、大人っぽい感じの人だったのが印象的でした。下手な鉄砲でも、まずは打たねば当たるまい。もはや人生崖っぷち。勇気をもって、ダメもとでダンスに誘うと、にっこり笑って、

「ていうか、あたしたぶん年上だと思うけど?」

な、なんと! 先輩だったか…。おそらく、今の生徒でもそうだと思いますが、中高生で学年がひとつちがうというのはかなり大きなこと。
まして異性に話しかけるとなれば、当時はそれこそ勇気がいることでした。とにかく恥ずかしいやら緊張するやら…。でもここでダメなら、もう時間がありません。
木っ端ミジンコのバラバラ、ひとえに風の前の塵に同じでございます。自分は背水の陣で頭を下げたのでした。

「あ、先輩とか全ッ然OKッス。よろしくお願いします!」
「ハハ、なんか運動部っぽいね。じゃあ時間になったらここに迎えに来て」

あれ、これってOK? やったー! やったぞー! エイドリアーン!(この時、自分の頭の中には、なぜかロッキーのテーマが流れていました)。もし近くに他の生徒たちがいなければ、おそらく歓喜の雄叫びをあげていたことでしょう。
ひとつは地獄のシゴキから逃れられたことに対して、もうひとつはちっぽけな勇気がむくわれたことに対して。

さてさて、あとはもうあやふやな記憶でしかありませんが、たしかこの年の一年生部員20数名は、すべてフォークダンスに相手を誘うことに成功していたように思います。
そして、ここからしばらく、たいていの部員が、高校に入ってはじめての〈楽しい時〉を過ごすことになるわけなのです。だからといって、さすがに当時の先輩に感謝の気持ちはありませんでした。よくぞまあ、史上最大の緊張を与えてくれたものです。
こんなひどいこと、もう誰がするもんかと言いつつ、ひとつ先輩になると、やっぱり同じことが繰り返されるのでした。「伝統」ってこわいものです。

まあ何はさておき、終わりよければ何とやら。めでたしめでたし。
《おしまい》

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