雄鳥のごとく(4)

 

意外や意外、おじさんの口から出たのは、

「俺ひとりではどうすることもできない。
小川さんが帰って、相談してからにしよう。」

という言葉であった。

女ふたりの失望の色は、 今も私の記憶に
鮮明である。

私は「頼りにならない男だ」と情けなくなった。

間もなく、自転車を押しながら父が現場から
帰ってきた。

大工だから、後ろには道具箱が積んである。

われ鐘のような声で、「誰だ、こんな所に縄を
張った奴は」と父は叫んだ。 叫ぶなり彼は、
地下足袋の足でポンポンと縄を蹴とばした。

縄はぷつんぷつんと切れてい った。

女二人からあらましを聞いた父は、菅野さんを
誘いもせず、道具箱から、ピカピカに研ぎ澄ま
されたまさかりを取り出した。

それを右手に提げて、「義男ついてこい」と
言うな り彼は、お向かいの「犯人の家」に
向かった。

父を絶対に信頼していた私は、大股にその後に
続いた。

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