雄鳥のごとく(5)
相手のおじさんは、よほど怖かったのか、
押入の中に隠れた。
隠れる瞬間を私は確かに見た。
奥さんが、「主人は今おりません」としきりに
謝るのだが、まさかりを下げている にしては
冷静な父は、奥さんと争いに来たのでは
ないから、ご主人を出しなさいと「説得」する。
「いきなり殺したりはしないから」と言うので
ある。
恐怖に震えているのか、押入の戸がかたかた2018
鳴った。
それに気づいて父は、私を見て微笑んだ。
それはもう、かっこいいものであった。
結末は平凡な相手方の陳謝で終わった
らしいのだが、私は菅野さんを誘ったり
しない父の瞬間的決断力に男を見たと
思った。
雄鳥ばかりではない、人間の世界にも、
家族と権益を守るためには命も惜しま
ない男が、 少し前には存在したのである。
<完>