後ろ姿で育てよ(2)

 

私は、旧制度の中学校に入学
しました。

当時中学校は、五年で卒業だった
のですが、これが新制高等学校に
変わり、中学四年生になるとき、私
たちは高校一年生に編入されました。

結局私たちは、同じ学校に六年間
在学する結果となったのです。

一年の時、三年生に大道さんという、
全校生徒から尊敬され、慕われている
生徒がおりまし た。

大道さんから声をかけられただけで、
下級生は大変な誇りに思ったものです。

私は、新聞編集委員として、大道さんの
下で仕事をしていたのですが、あるとき、
予定して いた原稿が届かず、新聞に
空白を生ずる危険が出てきました。

そのとき私は、不用意にも、「じ ゃあ僕が、
明日までに小説を書いてきましょうか。」と
言ってしまったのです。

大道さんの顔色が変わりました。小説など、
そんな簡単に書けるものではないと散々
叱られた後で、彼は「小説の書き方」という
本を図書館から持ってきました。

明日までにそれを読んで来なさいというのです。

尊敬する先輩の命令ですから、私は徹夜して、
その本を読んで行きました。翌日彼は、「ど う
です、小川君。小説などというものが、そんな
に簡単に書けるものではないということが分か
りましたか。」と、改めて厳しく叱られました。

当時の私の学校には、このように下級生から
尊敬されている「カリスマ」が、何人もおりま し
た。彼らから私は、先生方より遙かに多くのもの
を学んだのです。

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