蚊帳への郷愁(2)
蚊帳は、目の細かい網でできた大きな
四角い袋である。
六畳間一杯になるくらいの大きさがある。
天井はあるが底はない。
布団を敷き終わった部屋に、布団を囲む
ようにしてこの蚊帳をつるすのである。
ひもの先に結ばれた真ちゅうの環が美しかった。
狭いから、家族全員が身を寄せ合って眠る。
暑いから、縁側や窓などはもちろん開け放って
おく。布団に寝て、眠れぬまま蚊帳の天井を
見ていると、蚊帳越しに月が差し込んできたりする。
吹き込む涼風が、蚊帳全体を揺する事もあった。
最近は蚊も少ない。クーラーや網戸も普及し、
蚊帳はすっかり姿を消してしまった。しかし、
涼風に吹かれながら家族と一緒に蚊帳に眠った
あのころが、自分の一番幸せな時代だったように
思われてならないのである。
<完>