火事の際、女性が一人でタンスを持ち
出したが、火事が収まって、何としても
女一人の力で、元の場所に戻す事ができ
なかったという話を聞く。俗に言う「火
事場力」というものである。
私は、早稲田の大学院で勉強していた
頃、ドイツ語に不勉強であった。我なが
ら不甲斐ない話で、試験まであと四日し
かない。しかし、これまでも追い詰めら
れた経験はあるので、にやりとして、猛
勉強を開始した。一日 時間の勉強で
ある。勿論、寝る暇はない。神経が極限ま
で研ぎ澄まされたのかも知れない。三日
目に「神懸かり状態」になった。未知の単
語や句を、前後関係から類推するのだ
が、信じられぬほどの鋭さで、類推する
ことができるのである。
「神懸かり状態」は、どうして生まれる
のだろうか。素人考えだが、人間は、本来
の力の、30パーセントくらいしか使って
いないと聞く。その脳味噌に、さっとば
かりに血流が流れ込み、それが頭脳を、
異常に活発化させるのではないだろう
か。天才とは、そのような限界思考を、毎
日のように繰り返している人の事なの
だと思う。
(その2)に続く…