名作劇場~初めて見たアメリカ兵(4)~
月の美しい夜であった。「彼らも人間だったのか」
そんな複雑な思いで我々は田圃の中に立ちつく
していた。
外国人を全く見ることなく、白人の悪業ばかり
聞かされて私たちは育った。だか ら私たちは、
白人なるものを全く信じる事ができなかったの
である。戦争中の宣伝は明らかに行きすぎた
ものであった。しかし当時の軍部や学校関係者
のみを一方的に非難する事はできない。
第二次世界大戦が始まる直前、世界のほとんどは
白人列強の植民地であった。先日私を訪ねてくれた
ある老人は、津波で有名になったスマトラのバンダアチェに
十六歳の頃から住んでいた。当時オランダの植民地支配の
残忍さは言語に絶するものであったという。それだけに
日本軍が入ってきたとき、民衆は地鳴りがするような
どよめきでこれを歓迎したそうである。
やがて日本は敗れ、再びオランダの支配が始まった。
このオランダ軍と戦う中で、インドネシアの人々は、
祖国の独立を勝ち取るのである。 インドネシア以外の
アジア各地においても同様だったであろう。だから、
少年の日の私が、これほどに米軍を恐れたとしても、
一笑に付す事のできない歴史的経過はあったので
ある。
「外国人は天使ではないが悪魔でもなかった」
それが少年の日の 私の、初めてのアメリカ兵との
出会いだったと言えるであろうか。
完・・・