道具を使うからす(1)

 

学校を訪れる予期せぬ客は、
「メリーさんの羊」とは限らない。
小学校で一年生を担任して
いた頃だから、かなり昔の話で
ある。

給食の準備 に入っていると、
窓外の、それもずっと上の方で、
からすの鳴き声がした。ど うも普通の
カラスの声とは違う。どことなく甘えっぽい
声なのである。 私は窓を開けてみた。
一羽のカラスが、辺りを飛び回りながら
私を見つめて いる。逃げる気配など
全くない。そして時折、甘えっぽく
「かあ、あ」と鳴く のである。
狭山ヶ丘高等学校付属中学校校長メッセージ
幼い頃から、人になつくカラスをしばしば
見てきた私は、「は、はあ」と思 った。
時はまさに給食の時間である。
事情に通じた彼は(もしかすると彼女か も
知れぬ)、餌をねだりに来ているに違いない。
試しにパンをひとちぎりして、空へ投げあげて
みた。ひらり、ゆったり身を ひるがえすと、
信じられぬほどの巧みさで彼は、パンを
受け止めた。 一年生が黙って見ている
はずがない。お行儀も何もあらばこそ、
どっとばか りに彼らは、窓のそばへ
押し寄せた。それぞれにパンをちぎって
空へ投げあげ る。一度に三つ、四つの
パンが投げあげられるのだが、
彼はひとつとして受け損なったりはしない。
甘えた声で鳴きながら、ひらり、ひらりと、
すべてのパ ンを受け止めて食うのである。

その2に続く・・・

ページ
TOP