道具を使うからす(5)

 

職員会議で「かあ、あ」と鳴かれて
私の進退は極まったが、それでも
教頭に厳しく叱られたくらいで、
どうやら「懲戒免職」にもならずに
済んだ。

そんなわけで、私を愛するカラス君
との交流はその後も続いた。 給食に
私の大好きな蜜柑が出た。仕入れの
時、教育委員会の人が十分吟味して
いるのであろうか、給食の蜜柑は実に
うまい。

狭山ヶ丘高等学校付属中学校校長メッセージ

残った一個を手にした私は、 これを
グラウンドのベンチで食べようと出かけた。
不謹慎な話だが、グラウン ドで、
思いがけぬ物を食うのは、その頃の
私の生き甲斐だったのである。

蜜柑を手にして児童玄関を出ようとすると、
右手の足洗い場の、コンクリー トの上に
カラス君がいた。まるで私が出てくるのを
待っていたような感じであ る。

「おう、お前そこにいたのか。」

声を掛けると、彼はピョンピョンと二歩私に
近づいた。しかしその目は、じっと私の
手の中の蜜柑に注がれている。

少し迷ったが、まあ、この際仕方がない。

「何、お前、これが食いたいのか。」

まさ か「はい」とは言わないが、彼の挙動、
目の動きは、まさにそれを肯定してい る。

「仕方のないやつだなあ、これはひとつしか
ないんだぞ。でもまあ、お前 にやるか。」

私は、蜜柑を彼の足下に置いた。

 

その6に続く・・・

 

 

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