道具を使うからす(6)
ところが、感謝するどころか、彼はぷいと
横を向いてしまったのである。
「何、お前、皮を剥けって言うのか。」
私は手早く皮を剥いた。その手元を、
く っつくくらいの近さで彼はじっと
見守っている。剥き終わって私は、
再びそれ を彼の足下に置いた。
一気に食い始めるかと思いきや、
彼はまたしても、ぷいと横を向いて
しまっ たのである。
「こんなかたまりを食えるか。」
というわけなのであろう。いったい
これまで、どんな育ち方をしてきた
のであろうか。
「バラバラにせえって言うのか。」
私は、蜜柑を幾つもの小袋に分け、
彼の足下に一列に並べた。並べ終わる
まで、彼は食いもせずじっと見つめている。
もしかすると、上流家庭のご出身なので
あろうか。 並べ終わったのを見届けて、
彼は食い始めた。足でおさえて、薄皮を
剥き、 くちばしをぴっぴっと振ってそれを
はねとばす。蜜柑の薄皮をぴっぴっと
はね飛ばす彼の技は、それはもう見事な
ものであった。
鳩や雀などとは、頭の出来 が違うのである。
その7に続く・・・