道具を使うからす(7)

 

薄皮を剥いた「蜜柑の実」だけを、
彼はうまそうに食べていたが、時折
片足 を上げて、指を妙に動かす。
どことなく不愉快そうなのである。
甘い蜜柑の汁が足にくっついて、
べたべたするのが嫌いであるらしい。
時折押さえる足を変 えたりしていたが、
そのうち、両足ともべたべたになってきた。
狭山ヶ丘高等学校付属中学校校長メッセージ
彼の乗っていた場所は、水道のカランが
幾つもついているコンクリートの上である。
高さは人間の腰くらいであろうか。そこに、
誰かが洗って固く絞った 雑巾が残されて
いた。すっかり乾燥して軽石のようになって
いる。彼は、その雑巾のかたまりの上に、
ひょいと飛び移った。そして、足にその雑巾を
つかむと、そのまま蜜柑のある場所に戻った。
驚いている私を尻目に、 彼はその雑巾で
蜜柑を押さえ、足が濡れないようにして、
薄皮を剥き続けたのである。

何と、「道具を使っている」のだ。

私はしばらく感心して見守っていた。
しかし、蜜柑を取られた口惜しさもあ り、
ばかばかしくなって、その場を離れた。

いよいよ最終話に続く・・・

 

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