道具を使うからす(最終話)
この、「道具を使うカラス君」と一年生との
交流はその後も続いた。
だが別れの日が来た。
教頭が、カラスに餌を与えてはならないと
私に命令したのである。 まだ若かった私は、
彼の「事なかれ主義」に強く抗議した。
しかし彼は、 「先生、そんなことを言って、
カラスが一年生の目玉を引っ張り出したら
どう するんですか。」と私を諭す。
何しろ、雑巾を道具にするくらいの彼である。
それくらいのことはやり兼ねない。かわいいと
は言ってもカラスだ、カラスに倫理性がある
はずもない。
結局私は生徒に、カラス君に餌をやってはならない
と命令した。 餌をもらえなくなった彼は、その後も
三日ほど、教室の外で甘え続けた。
しかし、ほかにやさしい教頭のいる学校でも見つけた
のか、その後は姿を現さなくなった。 今もカラスを
見かけると、たとえそれが、ゴミ袋を破っている真っ最中
であ ろうと、私は彼らに、ある種の親近感を禁じ得ない
のである。
あのカラスは、 その後どのような「人生」をたどったので
あろうか。
<完>