ペリカン君の想い出(2)

モスクワ市内には、国際会議ということもあってか、
莫大な数の警官が動員されていた。車はペリカン
の専用車であったから、彼は前の座席に座る。
隣は運転手。 私と田が並んで後部座席。 ペリカン
が後ろを振り返り、にやにやしながら、

「小川、モスクワと東京ではどち らが警官の数が多い?」

と尋ねてきた。田中も笑みを浮かべながら私の顔を見守る。

「そうだなあ、数で比べれば、そりゃあモスクワの方が断然
多いさ。しかしモスクワの警官は民衆の味方だから、俺は
圧迫感は全く受けないよ。」

と私が答えると、ペリ カンが爆発したように笑い転げ始めた。
田中も上品にだが、声を出して笑う。

「はて、 俺はそんなに面白い答えをしたのかな。」

といぶかる私をしり目に、二人はなおも笑い続ける。

意味も分からぬままに、ついつり込まれて私も笑い出した。
その様子が おかしいとばかりに、二人は再び爆笑を始める。
ペリカンは当時三十代後半であったと思う。その体はものすごく
太っており、彼が体を揺すって笑うと、走りながら車がかなり
揺れたのを覚えている。それから十 年以上の歳月が過ぎ、
私はこのことを忘れるともなく忘れ去った。

その3に続く

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