北国の山の果実(3)
このほか私には、「山林檎」への特別な
思い出がある。 春先の北海道は固雪
になる。日中、雪の表面が融け、それが
夜間に凍って表面だけが固くなるので
ある。
早朝にその上を歩くと、ほんの数ミリほど
へこんで、カシャ、カシャと快い音を立てる。
自在に走り回ることもできるし、中には自転車
を飛 ばす剛の者もいる。
私が担任した、中学生のある男子生徒は、
三月や 固雪踏んで 卒業す
と詠んだ。
固雪の頃は、北国の子供が最も楽しみとする
季節だったのである。 高校を卒業して、山奥
の中学校代用教員になった私は、春になると、
毎朝固雪の山中を歩き回った。固雪も午前十時
を過ぎる頃になると、太陽に暖められて表面の
堅さを失う。固雪踏んで、自在に走り回るにしても、
遅くとも十時、できれば九時前には帰って
こなければならない。私は、朝の五時には家を
出て、山野を歩き回るのを、その季節の習慣と
していた。
その折りに、この山林檎を発見したのである。
(その4につづく)