肌を温め合う育児(4)

 

後に「刷り込み」、プリントインという言葉が
あるのを知った。

雛は卵から生まれ出たときに、「目の前で
動く最初のもの」を親と信じ込むように、
その心に「刷り込み」 がなされるらしいので
ある。最初に見たものが親である可能性は
百パーセントに近い。

悲しいことに、彼は孵卵器で孵化したから、
身近に親がいるはずもない。結局四六時中
彼を見守っている私を親だと信じ込んで
しまったのである。

彼は、職員室中を、移動する私の後について
歩き回った。授業に行くときにもついてくる。

こんな「子連れ男」は、一般会社ならはじき
飛ばされるところだが、そこは学校である。
「優しさ」に対しては、思いやりが特別に
尊ばれる世界だ。雛鳥と私との「甘酸っぱい
関係」に、校長も教頭も文句は言わなかった。

彼は階段だけは上ることができなかった。
そこで私が抱き上げて、出席簿の上に
載せて運んだりした。成長するにつれ彼は、
教室の中では私を離れて一人歩きするように
な った。

ドラマはまだまだ続くのだが、雛について
語るのが主眼ではないので、このくら いに
とどめよう。

しかし、自然界に生きて行く上で、動物の
親と子がどれほど深い愛情に結ばれて
いる ものかを、私はしみじみと味わった。

その5につづく…..

 

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