ひとりで行った入学式(2)

 

受付のあたりをうろうろしていると、「お母さんは?」と
訊かれた。

「母ちゃんは死んだよ」と答えると、婦人会の人々の
間にどよめきが走った。見る間に私は五、六人の
お母さん達に取り囲まれた。

中に事情を知った人がいたらしく、私の母が去年の
11月 に死んだことを告げたらしい。以来半年も経って
いないのだから、哀れに思ったのか、 お母さん達は
涙ぐんだ。

人の輪の中に取り囲まれながら私は、「俺の母ちゃんが
死んだら、よそのおばさんが泣くのか」と不思議でならず、
おばさん達を見上げていた。

入学式も終わり、新入生は教室に行って担任の先生の
お話を聞くことになる。しか し私だけは、「小川さんは
こっちに来なさいね」と、先生らしい人に手を引かれて、
保 護者と一緒に校長の話を聞くことになった。私の席は
一番前、校長の真ん前である。 保護者向けの話を
一年生に聞かせるとは、学校も馬鹿なことをしたものだと
今の私は思う。

 

その3につづく…

ページ
TOP