初めての喧嘩(4)
何と彼は、雑草の生えた崖を斜めに駆け下り、
私の方に走って来るではないか。
あのときの恐怖を私は今も覚えている。
とっさに私は、草の根本に露出し ている
手頃の石を拾い身構えた。
ところが何と大滝君は、いきなり
「義男ちゃん、昨日ごめんな。
俺悪かった んだ。」
と謝ったのである。
私は後ろ手に隠した石を、大滝君に
分からないよ うに苦労して捨てた。
「感情は力関係に従属する。」
長く人生を生きてきて掴んだ私の実感で
あるが、その萌芽はこのときの体験に起因
しているのかも知れない。
その後も、いろいろな場面で葛藤に直面
せざるを得なかったが、私は、大滝君との
人生初めての喧嘩で、幾つかのことを
学んだように思う。
その5につづく…