朝鮮人の思いで(2)
敗戦と共に「勝利者」の立場に立った
朝鮮人については、様々な噂が流れて
いた。
肉屋に行列を作っていたら、朝鮮の
青年がオートバイでやってきて、行列
など無視して、 あらかた肉を買い占めて
いったという事実は私の姉が確認して
いる。
姉は盲腸で入院しているときに、その
朝鮮人の青年と親しくしていたのである。
「朝鮮人は怖い」 、そんな思いが私の心に、
いつしか形成されていた。
それにしても 大変なことをやらかしたもの
である。
心臓が凍るというのはこんな時だろう。
「ごめんなさい。僕がきれいに拭きます」
そんな言葉を口走ったのではないだろうか。
当然何発 も殴られると覚悟した。
その朝鮮人の紳士は、勿論怒り心頭に
発したようではあるが、決してつかまえたり、
殴ったりはしなかった。
朝鮮なまりのある日本語で
「駄目でないか。学校先生、こんなことをやれ
と教えたか 」
それが彼の怒りの表現であった。幾度も幾度も
平謝りに謝ったが、彼は後ろを振り向くこともなく、
すたすたと私達を離れていった。
その3につづく…