平成23年度は、東日本大震災後の対応と共学校としての新たなスタートの年が重なり大変慌しい一年でした。
震災から一年が過ぎましたが、依然復興の道程は厳しいものがあります。震災後「絆」という言葉が強く叫ばれてきましたが、時間の経過と共に薄れてきたように感じています。復興に向けて頑張っている被災地の人たちと共に歩むために、分かち合うこととはどのようなことなのかを引き続き考え、実行していかなければいけないと思います。
これまでに実際に被害に会った方の話を聞く機会が何回かありました。その中で、特に印象に残っていることを紹介します。
この方は、宮城県の名取市でクリニックを開設しているお医者さんです。名取市は仙台市の少し南に位置しています。皆さんの中に、小学校や中学校で“NPO法人地球のステージ”の国際理解講座を受けたことのある人もいると思います。このお医者さんは、その代表の桑山紀彦さんです。
地震が起きる前の町の写真、小学生の女の子が震える手で撮った津波によって流される家々や車の映像、逃げ遅れた人びとを救うために犠牲になった知人たちのこと、津波が引いた後の変わり果てた町の姿、避難所で生活する人びとの様子など、映像を使いながら教えていただきました。
桑山さんは、3つあったクリニックのうち2つを震災で失いましたが、残ったクリニックで自家発電装置を使いながら24時間診療を震災後からずっと続けたそうです。一人ではできないことも、仲間たちと助け合うことによって何とかできるようになることを実感した、と話されていました。また、各地から救援のために訪れたボランティアの皆さんの活躍している様子と、町の人びとの感謝の気持ちも伝えていただきました。
終りに、桑山さんは、神奈川に住む人たちにお願いしたいことについて話されました。
それは、意外にも「普通の生活をしていてください。」というお話でした。
「家族が一緒に暮らし、お父さんが働きに出かけ、お母さんが家事をきりもりし、子どもたちが学校に通う生活。今、私たちが求めているのは、このような普通の生活をもう一度取り戻すことなのです。神奈川の人たちの営む普通の生活を見ることで、私たちの希望を確かめるとともに、励ましにもなるのです。」と話されました。
普通の生活をしながら私たちができることを工夫し、実行することが、復興の一助になることを教えていただきました。
皆さんには、復興が実現するまでこのことをしっかりと噛みしめ、実行してほしいと願っています。
今、皆さんは学校に通って勉強しています。学校は、たくさんの人たちが一緒に生活している場所です。したがって、たくさんの人たちと一緒にいるからこそ学べることを、しっかりと身につけることが学校の学びで大事なことです。言い換えると、集団生活で大切にしなければいけないことを身につける場が学校なのです。
高校の卒業式で「忘己利他(もうこりた)」の話をしました。
「忘己利他」とは、「自分のことはひとまずおいて、他の人のために働くこと」だと話しました。
集団生活で大切なことは、この忘己利他の心を持って行動することだと考えています。
自分さえよければとか、自分が得することだけを考えてはいけません。自分のことはさておいて、他の人のことを思いやることができる心をしっかりと身につけてください。
人は節目節目で立ち止まり、自分の現在位置を確認する必要があります。年度を終えるこの機会を、自分を振り返る節目にしてほしいと思います。計画通り進めることができているか。何か忘れていることはないか。次にやるべきことは何か……。しっかりと自分を見つめ直してください。そして、学校に通って学ぶ意義についても改めて考えてほしいと思います。
4月5日に、新しい希望に満ちた皆さんの元気な姿を見るのを楽しみにしています。