今年も神奈川県高校文芸コンクール短歌の部の入選者の表彰を行うことができ嬉しく思っています。
今の時季の短歌というと、すぐ次の歌を思い浮かべます。
万葉集の「東の野に炎のたつ見えて かへり見すれば 月傾きぬ」です。詠ったのは柿本人麻呂です。
今の季節、先生が家を出る6時20分頃はまだ薄暗いですが、だんだんと東の方から明るくなってきます。空を見上げると、少し西に寄ったところに真ん丸の白い月がはっきりと見えます。寒い朝ですが、今日も人麻呂のように月を見ることができるかなと期待すると、家を出るのが楽しみになります。
今から1000年ぐらい前に清少納言という人がいて、『枕草子』という有名な随筆を書きました。冒頭の「春はあけぼの」の段に、春夏秋冬の季節のそれぞれの素晴らしいところが挙げられています。
「春はあけぼの。」 …… 「あけぼの」とは、日の出の直前の空の明るさを指しています。
「夏は夜。月のころはさらなり、」 …… 夏は何といっても夜。月のある頃は言うまでもない。
「秋は夕暮。」 …… なるほどですね。
そして、今の冬の季節は何を挙げたでしょう?
冬はつとめて。雪の降りたるは言うべきにあらず」 …… 「つとめて」とは早朝のことです。冬は早朝。雪が降っているのは言うまでもない。
皆さんにとっては、冬は早朝が良いというのは意外だったかも知れません。
確かに、寒い冬の朝はなかなか起きにくく外に出るのが億劫になりがちです。
でも、清少納言は、冬とはそういう寒い季節であり、早朝のピーンと張り詰めた寒さが冬らしくていいんだ、と言っています。
富士山が綺麗に見えるのも冬の楽しみの一つです。マフラーや手袋を選ぶのだって楽しいですね。在学中に、雪が降った日の翠陵の一面の銀世界を見ることができる人は幸せです。
良く晴れた日の夜は、こんなにもたくさんの星が日本でも見ることができるとびっくりするくらい冬の星座がよく見えます。
冬は寒いからと嫌がらず、皆さんも清少納言や人麻呂にならって、自分なりの冬の楽しみ方を見つけてください。
樹木は、冬を越すごとに年輪を一つずつ刻んでいきます。冬の寒さが厳しければ厳しいほどはっきりと年輪を刻み、その分だけ強く逞しく成長するそうです。
春に花を咲かせる植物は、冬の寒さの中で芽を持ち始めます。暖かい春が訪れると一斉に花を咲かせる準備がもう始まっているのです。
辛いことややりたくないことは避けたがるのが普通です。でも、やりたくないことでも、やらなければいけない時がたくさんあります。
そんな時はマイナスの面だけ考えるのではなく、プラスの面も考えられるようにしましょう。
いやなことでも、楽しめることを一つでも二つでも見つけると心が和らぐものです。
皆さんには、物事をできるだけプラスに考え、少々のことではくじけない逞しさを身につけていってほしいと思います。

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