今年の春はまだ遠いようだ。各地で計画されていた「梅まつり」が終わってもまだ梅の香は私たちには届かない。それでも3月の暦を迎えると、節目の季節が訪れたことへの想いは強まってくる。卒業の季節を迎えるからだ。
昨年の3月は震災とその後の原発の事故の恐怖に怯えた日々だった。あれから一年が経とうとしている。時間の経過と共に、被災地の言葉と東京で語られる言葉のギャップを日々に感じる中で、この国の生きる形はどのように変化してきたのだろう。社会の問題を専門家に任せて無責任に時代を批判するだけでは何も解決につながらないことを私たちは学習したのではなかったか。また一方的で乱暴な言説に惑わされないように、一人一人の見識が問われていることを自覚させられたはずだったのではないか。震災後に新しい時代が始まっているのだろうか。私たちはどのように新しい教育の言葉を紡ぎ出すことが出来たのだろうか。
先日、青山学院院長の山北宣久先生をお招きして高等部3年生のための卒業礼拝が行われた。数年前に教会の牧師としてクリスマス礼拝にお招きしたことがあったが、この度はキリスト教学校の責任者として、卒業生のための説教にお招き出来たことを感謝した。「蛇のようにさとく、鳩のようにすなおでありなさい」と、これから本校を巣立っていく生徒たち一人一人に向けて良きメッセージを送ってくださった。時代の困難の中にひるまずにそれぞれのミッションを果たしていくための秘訣を、心を込めて語ってくださった。

この季節になると、一人一人の3年間、6年間の軌跡を思い返すことが多くある。成長の仕方は個人個人異なっているし、中にはハラハラさせられた生徒達もいた。卒業礼拝に出席している生徒達の多くは、素直で心優しい玉聖の心を大事にして育ってきた生徒達だ。成長の過程では挫折や困難を経験した者もあるが、それぞれの仕方でマイナスをプラスに変えて努力を継続してきたことを、傍らから垣間見させてもらうことが数多くあった。驚くほどの成長に喜びを分かち合うことも数多くある。今年も充実した3月を迎えている。
山北先生の語られた「狼の中に羊を送り出す」とイエスが語られた心境は、私の心にも響いてくる。「虚構」にしか見えないような将来に対する絶望感が充満している現代社会の中に出ていく生徒達には、行く手を阻まれているように思える現実の多いだろう。その中にミッションとパッションを持って生きることの意味を伝え続けた私たちの想いは届くのだろうか。羊飼いなる方の守りを心から願うばかりだ。