「ミトコンドリアDNAの塩基配列決定と分子系統学の基礎」 実習

 去る7月22日,23日,30日の午後を利用して,科学技術振興機構の助成によるPCR実習を行いました。生物を選択している高2・高3の文系・理系の生徒の希望者で抽選を行い,48名が参加しました。

 講師は東邦大学理学部准教授佐藤先生,ティーチングアシスタント(TA)として大学院生・大学生が各班に1名ずつ配されて,最初に講師による実験の説明の後,TAの指示に従って実験を進めました。普段授業では使うことのない,少量を測るピペットを扱ったり,授業では聞くことしかない遠心分離などの作業を実際に行ったことは生徒にとってたいへん得難い機会だったようです。最初は慣れない手つきで作業を行っていましたが,時間が経つにつれ要領を覚えて短時間で行うことができるようになっていきました。

 22日に遺伝子を取り出してPCR用の装置にかけるところまで行い,23日に増やした遺伝子を制限酵素で切断し,電気泳動にかけて結果を判定するところまで行いました。遺伝子の違いによって酵素が切る場所が異なるので,生徒それぞれが持つ遺伝子の違いを可視化して見ることができます。今回調べた遺伝子はミトコンドリアから取り出したため,母方の先祖が縄文系なのか弥生系なのかを見ることができます。また,この遺伝子は40歳以降病気にかかりやすいかどうかを決めている遺伝子でもあり,余計切実なものとして感じられたようです。30日は,ミトコンドリアの別の遺伝子の塩基配列を決定し,それを比較して参加者全員の系統樹(近縁関係)を調べました。数名,遺伝子が全く同じというものがあり,本人たちの知らない部分(おそらく江戸時代に共通の先祖がいる)で近縁であることがわかったり,それぞれの遺伝子の特徴がわかったりして,たいへん驚きながら結果を見ていました。

 ちなみに,誰と誰が近い,というような個人情報が特定されることがないように配慮しています。DNAは個人情報であることは再三説明し,生徒にもしっかり理解させました。このような指導ができたのも,遺伝子を扱う実験を行うことができたからだと思います。

 PCR法は少量の遺伝子を増やして調べやすくするための手法です。頬の内側から採取したごく少量のサンプルから,特定の遺伝子だけを増やしてその遺伝子が何なのか,また遺伝子の塩基配列まで決定してみるというのは,生徒にとっては想像を絶することです。

 しかし,大学や研究機関では日常茶飯事となっている実験で,高校の教科書や資料集にも掲載されています。また,大学入試では毎年複数の大学が出題し,その数は増えています。新学習指導要領でも遺伝子の扱いは大きくなり,全員がDNAについて学ぶことになりました。一方,遺伝子を扱うための機械や試薬は高価で,高校で行うには難しい部分が多々あります。貴重な機会を得ることができました。

 
 
  

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