地理部では3月25日から27日にかけて,2泊3日の春合宿を行いました。今回の調査対象地域は中京地区の中心「名古屋大都市圏」です。大都市圏のことを地理学の用語では”metropolitan area”といい,日本では東京,大阪,名古屋の三大都市圏が形成されています。名古屋大都市圏は,名古屋市を中心に,東部は愛知県の岡崎市や豊田市,北部は岐阜市,西部は三重県の四日市市にまで広がり,その人口はおよそ920万人に達します。地形的には,伊勢湾に面する濃尾平野とその周辺の台地から成り立ち,歴史的には尾張や三河,美濃など,多くの戦国武将を輩出した地域です。また産業では,トヨタ自動車をはじめとする機械工業や,味噌づくりや焼き物などの伝統産業も立地しています。今回は3班に分かれて,名古屋大都市圏の自然環境,歴史と文化,産業について学びました。この合宿で調査した内容は,2025年度発刊予定の「ちりレポ第23号」に掲載する予定です。
〔自然環境編〕
名古屋大都市圏は伊勢湾を取り囲むように広がります。伊勢湾岸は20世紀に入ってから埋め立てが始まり,1950~70年代にかけて急速に拡大しました。埋立地には製鉄所や石油化学コンビナート,火力発電所などが建設され工業化が進みましたが,一方で豊かな海辺の自然は失われました。その中で保全されているのが「藤前干潟」です。庄内川の河口に広がる約300haの干潟で,1999年に干潟の埋め立て計画を中止しました。ここは国内有数の渡り鳥の中継地で,シベリアなど北半球の繁殖地とオセアニアなど南半球の越冬地を往復しているシギやチドリなどが飛来します。その重要性から2002年にラムサール条約に登録されました。部員達は野鳥観察館から干潟の様子や水鳥の様子を観察しました。

水鳥を観察する部員
名古屋大都市圏が位置する濃尾平野は,木曽川,長良川,揖斐川によって形成された沖積平野で,三川が合流する河口付近の低地は標高0mから海面下に位置します。古くから水害の被害が絶えなかったこの地域では,集落全体を堤防で囲う「輪中」が発達し,河川の氾濫時に避難するため,石積みなどでかさ上げした水屋がつくられてきました。輪中を構成する堤防の高さは住宅の2階以上もあり,いかに標高が低いかが伺えます。

輪中の堤防と住宅地
〔歴史と文化編〕
現在の愛知県にあたる尾張国と三河国は,「三英傑」と称される織田信長,豊臣秀吉,徳川家康を輩出した地域です。彼らが築城した城郭や古戦場跡,縁のある社寺などが現在でも多数残されています。部員達は,それらの史跡をまわりながら歴史を学んだり,城がなぜその場所に立地したのかを考察したりしました。
「尾張名古屋は城でもつ」とうたわれるように,現在の名古屋市は名古屋城を中心に発展してきました。その起源は17世紀はじめに徳川家康が,当時の中心地だった清洲の城下町を丸ごと名古屋に移転したことに始まります。名古屋城は第二次大戦の名古屋大空襲で焼失しますが,1959年に天守が再建され,国内外から多くの観光客が訪れています。

名古屋城で集合写真
木曽川の畔の小高い丘上に天守を構える犬山城は,織田信長の叔父,信康により築城されたと伝えられます。尾張と美濃の国境に立地し,木曽川と急崖に守られた自然の要塞は幾度も戦の舞台となってきました。犬山城は現存12天守の中でも最も古く,築城当時の様式を今に残す貴重な文化財として国宝に指定されています。部員達はいわゆる「ガチ城」を最上階まで上り,城の構造や天守からの眺めを体感していました。

犬山城で集合写真
一方,長良川の面する金華山の山頂に築城されたのが岐阜城です。1567年にここを本拠としていた斎藤氏を織田信長が攻略し,美濃国を平定しました。「岐阜」という地名もこの時に信長によって命名され,城下町には楽市楽座が設けられました。商人たちの自由な商売による城下の繁栄が,現在の岐阜市に発展につながっています。岐阜城が位置する金華山は標高329mで,城郭を有する山の中では日本有数の高さです。山頂まではロープウェイがありますが,中1の部員の中にはなんと険しい山道を麓から登り,岐阜城を攻めるのがいかに大変だったか身をもって学んだ強者もいました。

金華山の険しい山道
〔産業編〕
名古屋大都市圏で重要な産業といえばトヨタ自動車をはじめとするトヨタグループの工業です。繊維産業の機械化を進めた豊田紡績株式会社からスタートした現在のトヨタグループは自動車だけでなく,鋼材や電気機械,繊維や織機など幅広く生産し,日本の工業を支えています。部員達はトヨタの関連施設をまわり,トヨタグループの成り立ちやイノベーションによる織機や自動車の変遷,最先端の生産技術などを見学しました。中でも自動車工場で実際に使われている産業用ロボットの実演はとても迫力がありました。

豊田産業技術記念館で集合写真

自動車を生産するようす

カローラに試乗する部員
もう一つ,名古屋大都市圏で有名な産業に焼き物があります。愛知県瀬戸市の「せともの」や岐阜県多治見市の「美濃焼」などがありますが,平安時代より茶碗や瓶などが焼かれ,日本最古とされるのが「常滑焼」です。知多半島の中部に位置し,良質な粘土を産出する常滑市は現在でも焼き物産業,窯業がさかんです。市内にはかつて利用されていたレンガ造りの窯や煙突が点在し,狭い路地は陶器の破片で舗装され,崖や斜面は土管や瓶で補強されています。この景観は2014年のセンター試験(現在の大学入試共通テスト)の地理の試験で出題されました。

常滑の土管坂
部員達は春休み期間中,地図や図表の作成,レポートの執筆を行っています。新学期が始まると1学期のフィールドワークと夏合宿に向けて事前学習を行います。2025年度も地理部の活動に乞うご期待!!

全員で集合写真
(地理部顧問)