「あの、三松先生。このあと星観るんですけど来ますか?」

そう声をかけてくれたのは自然科学部2年の高木君。昨年11月の皆既月食の際,私が自然科学部の観測現場に突撃したことを覚えていてくれたらしい。校内で偶然すれ違ったところ,そのことを思い出し誘ってくれたのだ。素敵な生徒である。恥ずかしながらロマンチックなことが大好きな私は溜まった仕事などそっちのけで彼の提案を快諾した。

広報のカメラを手に取り,言われた場所に向かう。しかしいくら探しても彼らを見つけられない。そこで私は同じく現場にいるらしい自然科学部顧問の渡邉先生(奇しくも,彼も広報の教員である)に電話をかけることにした。

電話に出た渡邉先生は私がことの経緯を伝えると高木君からは何も聞いていないらしく,一瞬驚きそして不敵に笑ったのが電話越しにも伝わってきた。そしてこう言ったのだ。

「本当に来る覚悟はできていますか?」

どうやら観測所は校内であるにもかかわらず学校関係者の間でも一部の者しか知らない秘密の入り口の奥らしい。電話で案内されるまま迷宮のような通路をさまよいやっとの思いで外に出た。見上げるとそこには

濃紺と緋色の鮮やかなグラデーションのなか燦然と瞬く星たち,その真ん中で一段と輝く三日月があった。

月
ゲリラ天体観測①

そこにようやく渡邉先生と高木君,同じく自然科学部2年の長野さんの姿を発見した。凍てつく寒空の下で,星月を見るためだけにその場に会し,食い入るように望遠鏡をのぞき込む彼らもまた私に負けず劣らずのロマンチストである。日没の18時を待って皆で身を寄せ合い星を眺めた。

「あそこにあるのが火星です。地表が赤いので肉眼でも赤く光って見えます。」

惑星がこれまで視界の星々の中にあることも知らなかった私に,うら若き天体博士の高木君は数々の知識を披露してくれた。私は高木君にこの度の感動と感謝を惜しみなく伝えた。

日が完全に落ちたあと星はいっそうよく見えるようになり,夢のような時間はしばらく続いた。

またこんな素敵な機会があれば是非とも呼んでほしいものである。職員室に戻ってきた私は余韻に浸りながらパソコンを開いた。

「さて、仕事仕事♪」

ゲリラ天体観測②

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