お題:利他の心の根底に利己はあるのか?
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」・・・宮沢賢治『農民芸術概論綱要』(1926)の一節である。しばしばこの部分だけを取り上げて、賢治の博愛精神を賛美するといった読み方がされている。しかし賢治は素朴なヒューマニストではない。
それはこう続く・・・「自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する 新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある 正しく強く生きるとは銀河系を自からの中に意識してこれに応じて行くことである」・・・賢治はとてつもなく大きな何かと共振する精神を求めていた。そしてその何かとはおそらく「全一性」をめぐるものだ。もちろんそれは、仏教的縁起思想から導き出される必然的相互依存性の自覚によるところが大きい。しかしそれは宗教者としての哲理である前に、農民としての実感であり、詩人としての直観であり、学者としての洞察であったろう。


