
「日本の美しさと深さ」
本校のチャプレンによる連載記事第2回目
髙野 晃一
私は今から45年前にカンタベリーの神学校で1年学び、35年前には北のダラムに近い教会で2年働き、7年前に立教に来ました。これで3度目のイギリス生活です。
イギリスでも今では年毎に食材は豊富になっていますが、海外に住むと日本食の美味しさに気付きます。
日本では当たり前の食べ物が、何でこんなにも美味しかったのかと思います。
前のイギリス生活がロンドンから離れていたこともあって、日本食は全く手に入りませんでした。
日本からの来客のお土産「チキンラーメン」を、家族皆で分け合って食べた時の美味しさは今でも忘れられません。
海外で生活をしてみると日本食と同じように、日本の美しさや深さに目が開かれます。最初カンタベリーの神学校に来た時、私は日本語の「旧新約聖書」と斉藤茂吉「万葉秀歌 上下」を持って来ました。
日本では落ち着いて読めなかった万葉集を、一日に一首ずつ繰り返し読み、日本語の通じないイギリスで日本語の美しさ深さに触れ学びました。
また日本は仏教国ですから、神学校の友達から仏教に就いて度々聞かれましたが、大学で英米文学科出身の私はシェイクスピアやワーズワスは知ってはいても、大乗仏教に就いては全く答えられず大変恥ずかしい思いをしました。それで日本に帰国してからは出来る限り万葉集や大乗仏教の本も読み、その素晴らしさに眼が開かれました。
幸い関東と大阪にも住めたので、実際に自分の足で万葉や日本仏教ゆかりの地を訪ね理解と感動を新たにしました。
衾道(ふすまじ)を
引手(ひきで)の山に妹を置き
山路を行けば生けりともなし
妻を亡くし三輪山近くの引手の山(竜王山)に埋葬し、ひとり山路を帰る私は生きている心地も無い、柿本人麻呂の悲痛な和歌です。
現在も桜井から天理まで通じる日本最古の街道「山の辺の道」は、万葉の和歌と深く関わっているゆかりの地です。
なにとなく心騒ぎていねられず
あしたは春の初めと思えば
雪深い越後の国上山、五合庵の良寛さんの和歌です。
厳しいイギリスの冬から春の気配を感じる季節には、この和歌の心が通じ合う気がします。
第二次世界大戦後日本は封建主義の名のもとに、その長い歴史を通して養い育てて来た素晴らしい伝統を、ほとんど捨て去ってしまったのではないかと思うことがあります。
日本を離れて海外から日本を見詰めると、返って日本の美しさ深さを見出せるのではないか。
私自身が生徒たちと共に学びながら、今でも毎日新鮮な日本の発見をしています。
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